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横浜地方裁判所 昭和52年(わ)1246号 判決

主文

被告人を罰金五万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金二〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

差戻前第一審及び差戻後第一審の訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、昭和四四年一二月一二日付で甲種二等機関士の免許を取得し、昭和四六年九月一四日から明治海運株式会社所有の油送船明原丸(総トン数一〇五、一九二トン)に乗組み、三等機関士として同船に使用する燃料油の補給等の船務に従事し、燃料油の補給に際しては、その受入れ作業の現場監督を担当し、補油計画を綿密に立案するとともに、補油作業中は、連絡及び計測に十分注意し、油の船外への流出防止に遺漏のないよう慎重を期さねばならない業務上の注意義務を負わされていたものであるが、同年一一月三〇日午前八時四〇分ころ、右明原丸が川崎市扇島沖の川崎南防波堤灯台から南々東二、二〇〇メートルの海域に設けられた東燃扇島シーバースに着桟した際、同所において、燃料油であるC重油約六、〇四四キロリットル(摂氏一五度における体積)を給油船第八鶴浜丸ほか八隻から右明原丸の燃料油タンク六個に順次補給を受けることとなり、同日午前九時三〇分ころから補油作業を開始したところ、同日午後五時ころ時化模様となつたため、給油船五隻分の補油終了をもつて一時作業を中断し、同日午後七時ころ天候回復とともに作業を再開し、残りの給油船四隻分約三、〇三六キロリットルを一番右舷タンク(容積一、五二三・三立方メートル)、一番左舷タンク(容積一、八四二・三立方メートル)に補油し始めたが、このような燃料油の補給作業に際しては、補給中たびたび各タンクのアクセス・ハッチからタンク内をのぞいて油面を確めるか、または、タンク内のサウンデイング・パイプ(測深管)にサウンデイング・スケール(油タンク巻尺)を降下させて計測する等の方法により、絶えずタンク内のアレーヂ(油面からタンク頂部までの高さ)を確認して、タンク内の油量を把握し、また、その計測にあたつては重油の粘度、空気の圧力等を考慮して計測に誤りのないよう留意し、もつて補給中の燃料油がタンクの容量を超過してタンクのアクセス・ハツチ等から甲板に溢出し海面に流下するのを防止すべき注意義務があるのに拘らず、

一  翌一二月一日午前三時三〇分ころ、給油船も最後の九隻目の第六太平丸が給油中であり、補油作業も間もなく終了する時刻であるから、特にタンク内の油面の確認には慎重を期さなければならないのに、甲板上の一番右舷タンクの油面を確認しようとして、甲板上の同タンクのアクセス・ハッチの蓋を開放したが、その際、ガスの臭気があつたため、臭気の散逸するのを待たずに油面の視覚確認を断念し、

二  さらに、甲板上のサウンデイング・パイプのキャツプをはずして同パイプ内にサウンデイング・スケールを降下させてアレーヂを計測したが、その際右サウンデイング・パイプの気密性及び重油の温度、粘度の関係から右キヤツプをはずし取つた直後にはパイプ内の油面が空気の圧力によりタンク内の油面より低くなつていることに気付かず、右キャップをはずした直後にサウンデイング・スケールを降下させたため、アレーヂの計測を誤り、既に油面がタンク頂部に接近していることに気付かず、

三  右計測の誤りもあつて、なお相当量補油されるものと考えていたところ、同日午前三時四〇分ころ、右第六太平丸の船足がかなり上り、残油が僅かしかないことを示していたため、予定通り給油されていないものと思い、明原丸甲板からシーバースに降り、約一四三メートルの桟橋を渡つて右第六太平丸に赴き、同船乗組員らに残油を問い合わせたりしていたが、その際、油面確認のための代りの作業員を置かないで、アクセス・ハッチを開放したまま持場を離れた

等の過失により、同日午前四時前ころ、一番右舷タンクの燃料油約二・五キロリットルを蓋の開放されたアクセス・ハッチから右舷側海面に流出させ、もつて本邦の海岸の基線から五十浬以内の海域において油を排出したものである。

(証拠の標目)(省略)

(法令の適用)

被告人の判示所為は、海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律附則八条、船舶の油による海水の汚濁の防止に関する法律三六条、五条一項一号に該当する(同条にいう油の「排出」には過失による場合を含むと解するのが相当である。福岡高宮崎支昭四七・三・三〇刑裁月報四・三・四七八参照)ので、所定刑中罰金刑を選択し、所定金額の範囲内において被告人を罰金五万円に処し、右の罰金を完納することができないときは、刑法一八条により金二〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文を適用して主文第三項のとおり全部これを被告人に負担させることとする。

よつて、主文のとおり判決する。

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